【読書記録】F1ビジネス ――もう一つの自動車戦争 ★★★★☆

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F1ビジネス ――もう一つの自動車戦争 (角川oneテーマ21)

先日、バーニー・エクレストンやコンコルド協定など、F1のビジネス面に関するエントリを書きましたが、本書はまさにビジネス面に特化してF1を語った希少な一冊です。

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著者はホンダのレース活動を担当する会社、ホンダ・レーシング・ディベロップメントの社長を務めた田中詔一氏。
2006年5月の書籍ですが、現時点での話よりもこのタイミングでのビジネス構造を学んだほうがよりシンプルに理解できるので、その点も含め今読む価値のある一冊です。

本書は前半でF1のビジネス構造について、後半では自動車メーカー連合とFIAの対立から始まった00年代の分裂騒動に関する非常に詳細な内情が語られます。
F1ファンとしてこれまで多くのF1雑誌や関連書籍を読んできましたが、それらはF1専門のジャーナリストや、F1に関係の薄いジャーナリストによるものが多く、このようなチーム運営者の視点の本と言うのはこれまでにないものでした。
このため、各種数値や仕組みの諸々は「外部から伝え聞いた話」をさらに又聞きするようなものでありましたが、本書ではそれらが非常にクリアに紹介されます。00年代の自動車メーカーによる分裂騒動はジャーナリストやF1業界筋から見れば「FIAから主導権をとるためのブラフ」でしかないと見られていましたが、実際に内側ではどのような思惑が存在していたのか、この本からその本音を見ることができます。

ここで改めて著者の属性について確認しておきましょう。
2000年代中盤というのは自動車レースによってビジネスを成り立たせているレーシングチームに加えて、多くの巨大自動車メーカー企業が参入してきた時期で、田中詔一氏は後者に属する立場です。
この立場の違いが本書の見解に大きく影響していることは事前に理解しておくべきポイントです。
実際に田中氏による前者の独立系チームの評価は、「どれだけ高くチームを売り抜けるかが独立系チーム経営者のゴール」と断じています。が、実際確かにこうしたチームはあったものの、必死に存続と上昇を求めて戦ってきた独立系チームを自動車メーカー側が侮っているという見方はしなければなりません。

また、分裂騒動において田中氏は自動車メーカー側として大いに働いており、FIAの方針に対して真っ向からぶつかるスタンスでありました。本書でもFIAに対する辛辣なコメントを残しています。
が、本書が発売された2006年からたった2年後、2008年にサブプライムローン問題を発端とする業績悪化に伴いホンダはF1から撤退。2009年にはBMWとトヨタがF1から撤退、ルノーも事業の大部分を売却し2010年に完全撤退しています。
この分裂騒動において「悪の独裁者」とされたFIAのマックス・モズレーが2005年時点で出した「自動車メーカーは本社都合で簡単にF1を見切ってしまう」という危惧が完全に的中しており、「田中氏の見解はあくまで自動車メーカー連合としてのものであり、必ずしもF1全てにおいて正しいものではない」ということを前提として読む必要があります。

しかし、その上でも自動車メーカー側としての極めて貴重な見解やエピソードが1冊に詰まっており、F1をよく知らないけれどF1のビジネス構造に興味がある人から、爪先から頭までどっぷりとF1に浸かったF1マニアまで大満足な良書です。