WordPressサイト見積り勉強会の資料を見て、見積もりに関して考える

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WordPressサイトを構築するといくらかかる? 見積り勉強会で価格を出してみた | WordBench

ホッテントリに入っているのを見かけたのですが、非常に面白い勉強会が行われたようですね。
以前見積に関するエントリを書きましたが、こういう見積りのテクニックを磨いていくのはとても重要な事だし、作業のコスト感を身につけて制作するというのもまた、制作屋としてはスキルになってくると思います。

さて、非常に面白いので元現場の視点であれこれと考えてみましたよ。

 

■コメント欄の指摘を考える

このエントリの内容について考える前に、まずコメント欄の指摘について考えてみたほうが良さそうです。
林亮氏の指摘は「状況をきちんと理解せずに見積もり作ったって勉強にならないし、評価のしようがない」というもので、このエントリの「これはまだ建築設計に標準的な工法が無いことを示しています」という考察がいかに無意味であるかを説かれています。これはもっともな話で、加えるなら制作側の体制、1人日の費用やアサインメンバーも決まっていないため、受託側の前提となる見積もり算出根拠がなく、予算が壮絶にバラつくのもやむをえない話であると思います。

が。
一方でそれでも暗中模索で見積もりを作成してみるというのは貴重な経験であろうと思います。
つうか実際現場でも「依頼主の予算感や運用に対する具体的な数字がでていない」ことや「依頼主とのすり合わせができていない」ことなどは少なくありません。営業がテキトーに話を聞いてきてRFPを投げつけてきた以外、何一つ情報もないままコンペに突入することなどザラですし、要件すら明確でないままアタリとして概算見積もりを作成して営業に渡すことだってあります。
「金額の多寡は状況に依存」するというのもまた正しいのですが、これだって「とりあえず予算出してよ、それ根拠に予算確保してくるから」というケースや、そもそも依頼主が予算感を把握しておらず相見積もりによって平均値を見出そうとしてくるケースが考えられます。
依頼主の予算感は大事ですが、それ以上に案件規模から適正予算を想定できる基準値を培っておくことは大事で、それがないとアレンジが効かない、予算に応じた適切な根拠が説明できなくなる制作者になってしまいそうです。現場あるあるを踏まえて、40人集まって失敗見積もりも含めて様々なパターンを学べるのは大事だと思います。
まぁ正直、見積もり作成が作業レベルに落としこめるくらいきちんとプライスリストを整備しておいたり、暗中模索で見積もりを作成しなくて済むくらいきちんとヒアリングできるようになるのが一番ですが…理想ですが…。

 

■依頼内容を読み解く

この勉強会の要件は、依頼者がどんなスキルを持っているか、どんな状況での案件であるかが非常に丁寧でわかりやすく書かれています。
この例題における依頼者はそれなりにインターネットの基礎知識があり、コーディングはできないものの一定の運用経験を持っています。おそらく打ち合わせの難易度は低く、こちらがきちんと説明すれば依頼者はきちんと理解してくれることでしょう。
依頼内容も明確で、「コーディングはできない(したくないが)が、日々の運用を依頼者自身で行えるための環境作成」を求められています。
この点と、依頼にあたってライティングとSEO/広告、制作をそれぞれ別業者に依頼している点は、「良質な環境構築のために複数業者とやりとりをすることを厭わない」人物であることを示しており要注目です。
また「長持ちするデザインやツールへのこだわりが強い」というあたり、定期的な手入れで稼いでいくよりも、一発目にきちんとした成果物を出していく方針で行ったほうが良さそうですね。

これらの前提部分から、本件は「初期制作を安めにこなして、運用で稼いでいく」案件ではなく、「制作一発で売上と信用を獲得する」べき案件であろうと推測します。

またこれらから、本件が相見積であるという点はきちんと考慮すべきで、「マニュアル作成は面倒臭いからあきらめさせよう」という態度は避けるべきかと思われます。特に既にいくつかの別業者とのやりとりがわけですから、受注側のスタンスはシビアに見られる可能性は高く、要件を抑えてこない見積もりはその時点で負け確定です。
同様に運用更新を依頼者自身が行いたいという意志が見え、これは要件外であると判断できるため、あらかじめ見積もりに組み込んでしまうとこれまた満足度が低くなってしまいそうです。(参考程度の別見積もりとしてお出しすることは重要ですが)

というあたりでいくつかの見積もりは脱落してしまいそうですね。

「初期費用を抑えて運用で稼ぐ」というのはWEB制作ではとても重要な考え方ですが、これがマッチする依頼者や環境というのはそれなりにポイントがあると思います。
・依頼者(実運用者)にWEBの知識がなく、運用を補佐する必要がある
・依頼者(実運用者)が流行りに乗って様々な(時に過大な)要求をサイトに求めがち
・案件の中に解析やSEO、DBの保守など継続運用が含まれており、追加制作案件を絡めやすい
・細かい見積もり項目で渋ってくるので、仕様書などをバッサリ非公開にして次の案件につなげておく
こうした案件である場合は「初期費用を抑えて運用で稼ぐ」モードを全力で発揮できるでしょう。

 

■見積もり項目を眺める

この勉強会の面白い点は10チームが様々な経験レベル・案件の想定で作成した見積もりを見比べられるところ。
依頼者側がコンペを行っているときに観ている景色を、見積もりを作成した側が確認できるというのはものすごく勉強になるはずです。日常コンペに参加する場合は「受注できたか、できなかったら何がいかんかったか概要」くらいしか知る事ができず今後の参考にしにくいため、こうして一覧できるというのは客観的に眺められて良いですね。
あー、ディレクターが作る見積もりだなぁ、一式まるごと一人でできるデザイナーの見積もりだなぁ…というパターンもいろいろ見えてきます。(デザインとコーディングがまるっと1項目になっているのはいかにもなフリーランスの特徴ですね)

で、10点を眺めていると、「見積もり項目が曖昧で全体像が浮かんでこない」ものや「項目ごとの費用がざっくりしすぎていて、きちんと見積もったのかなと不安になる」もの、成果物がわかりやすいものがよくわかります。
見積書はきちんと詳細に項目を記載し、単価と制作量が把握できるよう記載するのが基本的に望ましく、これらが明確であると依頼者側は「ちょっと高いが、この項目を減らせば少し安くできそうだな」と判断できるのでコンペには通りやすくなります。

10点の見積もり案で最も悪い例として挙げられるチームネイビー。「初期制作費 一式250,000円」とたった1行。
またチーム放出は「SEOなどではなくオフライン広告を出すべきだ」という余計なおせっかい心が湧いていきなり全く要件範囲外である折込チラシの提案を始めていますがこれは論外ですね。なお、病院は医療法で厳しく広告に関する制限があり、出せないわけではないのですが歯科医師会の圧力が強くチラシ広告はあまり一般的な行為ではありません。スタンドプレーの上にクライアントのビジネス理解のなさも露呈してしまうことになるので、この依頼者と仕事をすることは以後なくなるでしょう。お疲れ様です。

さて、チームネイビーの例だけでなく、WEB制作の見積もりにおいてはできるだけ数量に「一式」と記載する事は避けるべきだと考えます。数量記載の単位が悩ましいベースデザインなども、「16時間 ※デザイン2案 作業時間・確認・修正2回までを含む」などと作業時間単位にすることで項目の作業内容とコスト根拠を明らかにしていくと良いでしょう。(こうした見積もりでニギっておくと、修正3回目が発生した段階で「作業が見積もり範囲外に達したので追加で予算くれ」と交渉しやすくなるというメリットもあります)

また、基本的には依頼要件に存在しない保守運用を見積書にいきなり記載するというのも、依頼側から見れば「いや俺そんなこと頼んでないし」というマイナスポイントになるので、提出するにしてもチームドしろうとのように別表にしておくのがベターですよね。

さて、この勉強会では見積金額が18万~150万と大きく開きが出ていますが、正直チームAgo-HIGEまでの低価格帯は見積もりが大雑把すぎて多分受注後に赤が出て慌てふためくパターンですので「真っ当な費用感」とは言えません。また最も高いチームちこくは1日の作業単価8万円と驚きの高額さなのでこれまた現実的ではないでしょう。時間単価にすると1万円。これってWEBコンサルの単価設定か電博の見積もりくらいしか目にする機会がありません。
というわけでこの上と下を取り去ると(+要件範囲外のチラシを除くと)48万~95万ほどの金額感が並ぶことになります。概ね妥当な感じだと思いますし、このくらいの金額差は現実的に考えられそうです。
raf00がざっくり見積もると、時間単価を5000円と設定して環境構築とデザイン・コーディングの実制作部分で50万円、マニュアル作成とディレクション費を含めて合計65万円くらいだったので、50~60万円くらいのところでのバトルになりそうだなぁと感じました。

などなど、この勉強会エントリで作成された見積もり群をいろいろ眺めてみましたが、こうしたWEB制作の見積もりに関して事例を見ながら検討したりディスカッションしたり、知識ノウハウを共有したり…というのはあまり行われないので、ディレクションしていた人はあれこれ口を出すと有意義になるんじゃないかな、とか思います。

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