「最高の違法ファイル交換ソフトの創造者」金子勇氏を偲んで

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惜しい方が早世してしまいました。大きな才能と恐れずに進む積極性を持った稀有な方でした。彼の死を惜しみます。彼が作り上げただろう未来のプロダクトを惜しみます。
彼の死に多くの方がエントリを上げられており、これを読んでいます。
そしてその中に、氏が存命中から気になっていたことが改めて書かれ、こうした言葉がザリザリと心を削ります。

「結果的に金子勇は無罪だった。当たり前だ。彼が作ったのは単なる超分散ファイルシステムだ。あるものが違法コピーに使われたからといって、その作者が全て罪に問われるのならば、LinuxもWindowsもインターネットも同罪ということになってしまうだろう。」
天才、金子勇 – UEI shi3zの日記 

氏を一般に知らしめたかの逮捕劇によって、「ソフトが犯罪に使われた場合、責はその開発者にあるのか?」「責が開発者にあるのだとしたら、全ての技術者は責を負わされること重圧に開発の手が止まってしまう」という議論が巻き起こりました。
これによって氏は一躍「自由な技術を守るためのイコン」として祭り上げられました。

しかし、金子勇氏、いやさ47氏が作りだしたのは「無色透明な超分散ファイルシステム」ではなく、「違法ファイル交換システム『WinMXの次』」でした。それはそうした目的のものでした。無色透明?2ちゃんねるのダウンロード板で?まさか!
この点、47氏自身の発言を無視することはできますまい。
「土木工事向けに開発したダイナマイトが戦争に利用された」のではなく、「戦争用の機雷を、将来善行にも使われうる新技術を用いて開発した」というものであり、この点でLinuxやWindowsやインターネットが同罪、というのはあまりに脳味噌の地平が一面のお花畑で埋め尽くされた解釈であると言えるでしょう。

氏が作り上げた「超分散ファイルシステム」Winnyは、アンダーグラウンドで流行したWinMXの後継ファイル交換ソフトとして途方もなく優れた仕組みを持っていました。
WinMXでストレスを高めた「交渉による交換」を一切排し、ファイルのやり取りをした相手を特定することなく、「著作権含むけどそれと知らない人が単にデータを中継しただけ(47氏発言そのまま)」と言い訳できるキャッシュの持たせ方、より多くのファイルを提供する人が利する仕組み、そして「管理サーバを介することなく、ユーザーがいる限りネットワークが維持される」というP2Pの利点を最大限に活かした構造。その上で「何かが起きた時のブレーキをあえてかけない」という選択。
アンダーグラウンドなファイル交換を行う上で、考えられる限り最も美しく、手軽で、そして手のつけられない仕組みです。
この恐ろしい仕組みをたった一人、それも2ちゃんねるで随時実況できるスピードで作り上げたということは改めても驚くほかありません。
なんたる深遠さか、なんたる度胸か。
「善悪という枠にとらわれず、考えうる最高の違法ダウンロードソフトを作り公開した」という点こそが氏の才能の表れであると、そう思います。
そしてその行為は──技術者としての素養も技術も経験も知見も全くない自分にとってすら──何かを創り出す者にとって憧れであり、一つの尊敬できるものであります。

「無色透明」?とんでもない。ファイル交換という実に真っ黒な領域において、金子勇氏は「掛け値無しの天才」としての最高の証明をし、「まず情熱があり、その情熱を裏打ちする理論を自分で構築するという極めて希有な能力」を知らしめたのだと思うのです。また彼の逮捕、彼の死によってP2Pの未来が閉ざされたのではなく、彼がWinnyを世に示したことによって、P2Pの持つリスクや課題が最も明確な形で明らかにされたと思っています。

改めて、金子勇氏の早世を悼みます。
「WinMXの次は何なんだ」スレッドでリアルタイムな発言を見ていた者として、氏によってプログラマーの凄さ、彼らは真に「世界を変える」力を持っているのだと学ばされました。
氏の功績が、お花畑な脳味噌をお持ちの方々の欺瞞に消費されることなく、なんだかよくわからない英雄として語られるのではなく、そのままに残ることを願ってやみません。

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