「Web制作のリアルな工数と見積もりの話」の話をしようじゃないか!

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raf00がWEB制作の見積もりについて書きたいなぁとか言いながら1年半が経ちました。
で、いずれ書かなきゃなーと思いながら過ごしていたら、WP-Dさんが非常に興味深いエントリを上げられていましたので、これに便乗する形であれこれ書きちらしてみたいと思います。

WordPressのリアルな工数と見積もりの話をしようじゃないか! | WP-D
ウェブ制作の見積もりを金額付きで晒してやろうじゃないか! | WP-D

 

■あの見積もりは妥当か否か

なかなかブコメなどの反応が興味深い見積もりサンプルですが、現在の(上場企業の制作業務に対応できるくらいには)真っ当なWEB制作会社が企業向けに出す見積もりとしては項目・工数・価格的には概ね妥当かつ適切だなと感じられます。サンプルであるがためにこまごまとボヤけた点はあるものの、WEB制作会社のプロデューサー・ディレクターやクライアント企業のWEB担当者ならば、「なるほどね、あとはここをこうああしてこうして…」と具体的な想像と修正に進めるくらいの精度であると感じられます。
ポイントと気になる点としてはこんなところ。
・デザインとコーディング部分がサンプルのためなのか人日でまとまっている点、少し気になる
・「コンサル/要件定義」と「ウェブサイト設計」が(当たり前ながら)きちんと含まれている
・WordPressの設計で、インストールから設定までの工数がやや多い?
・製品比較表示機能と商品DB連携機能があるなら、テンプレートデザインもおそらくもうちょっとくらい乗せられそうだな…と。
・サンプル全体をクライアント目線で見ると、要件定義から設計制作テスト納品までをきちんと見通した見積もりだという印象を受ける。総じてコスト感もわかりやすいものの、デザイン・コーディング部分の細かいコスト感がわかりにくく感じられる。

総額250万円というのは開発のタスクがそれなりに発生し、最終的に更新ガイドなどのドキュメントも必要なのであれば納得のお値段かと思いました。

で、以下は細かい話。

 

■価格感に関すること

この案件の前提を見積書から考えると
・大体50~100ページほどの企業のコーポレートサイトのリニューアル案件
・営業1名、ディレクター1名、社内デザイナー・コーダー1名、プログラマ1名のアサインで1ヶ月半
程度の案件であろうと推測します。その上で総額250万円というのは概ね妥当であろうと思うのですが、このくらいの規模って、一番割高感は出るよね…というのはいろいろ企業サイトの見積もりを作成してきた中で思うところではあります。
要件定義やテンプレート作成など手のかかる作業の比率がどうしても高くなってしまい、単価が安くて済む流しこみの作業が相対的に少なくなってしまうあたりは。
「10ページなら50万円、100ページなら500万円!」というわけにいかないのはやむをえないところ。

 

■「コンサルティング/要件定義」「ウェブサイト設計」について

この2項目は、元エントリへの反応でこれに関する疑問が見られましたし、クライアントから質問される項目でもありますし、また実際フリーランスや中小のデザイナーの見積もりではこれが含まれていないこともままあるのですが、Web制作会社ではごく普通、当たり前に行いますし、当たり前に計上する項目です。

具体的には
・クライアントから今回の依頼に関する要件を詳しくヒアリングする(打ち合わせを行う)
・何をやりたいのかを理解した上で、「何をどのように、どこまで関わるか」を提案し、制作会社が行う作業内容を確定する
・作業範囲および依頼のゴール、納品物一覧についてまとめ(スコープを定義する、という)、スコープ定義書を作成、提出しクライアントの同意を得る
というところまでが「要件定義フェーズ」、そして
・現状サイトあるいは構想しているサイトのサイトマップを作成、ページ数や機能を確定する
・サイト制作のスケジュールを作成し、スケジュールを共有する
・Webサーバやコーディング、デザインの仕様を確定しサイト仕様書を作成する
・大まかなサイトデザインを確定するためワイヤフレームを作成する
という「設計フェーズ」がこの2項目で行うこととなり、このフェーズ内で作成されるドキュメントは全て納品物となります。

というわけで、「コンサル/要件定義」と「ウェブサイト設計」は新規サイトを制作するという流れではまぁ納得できるプライスです。仕様書作成・ワイヤフレームあたりはより詳細に見積書の項目に記載する企業が多いですが、まぁそんな感じで。
いずれにせよ、スコープ定義書というのはWEB制作において「概算なり正式なり見積書を作成する上で必ずセットになる」もので、WEB制作のトラブル原因の4割はここをきちんと握れないことにあると言って過言ではありません。
このくらいの案件で50~100万で行うところというのは大概この初期のフェーズ、特に要件定義フェーズがおざなりな会社や「スコープ範囲と作業内容・金額をきちんと説明できないフリーランス」である場合が多いです。実際制作会社のWEBディレクター時代、下請に依頼した際もこの点でしくじったことがありますし、raf00自身も個人で知り合いの会社のサイトを作成した時、最初はこれを怠って死ぬほど厄介なことになりました。

ので、この項目にきちんとコストをかけている見積書を見たら、「少なくともこのへんきちんとやろうとしているのだろう」と理解して良いと思います(そこから先はディレクター職の腕次第ですが)。

 

■デザイン・コーディング見積もりについて

気になったのはデザインとコーディングの見積もり項目です。
概算だから…ということでざっくり見積もってしまいがちなのですが、クライアントの視点に立つと「俺がざっくり考えているイメージと彼らの見積もりをこれ以上ぶつけられないけど、この金額でいいのね、オッケー」と判断されてしまいがちな部分ではあります。

なので、サンプルであっても
・メインテンプレートデザイン (単価:大) ×1
・第2階層テンプレートデザイン (単価:中) ×3
・イラスト・写真イメージ作成 (単価:中) ×3
・素材提供写真補正 (単価:極小) ×10
・テンプレートコーディング(CSS/JS作成含む)(単価:大) ×1
・第2階層テンプレートデザイン (単価:中) ×3
・ページコーディング (単価:小) ×7
・ページ流し込み (単価:極小) ×5
・Flash作成 (単価:規模により) ×1
といった感じで、各作業の金額感を区分して明らかにしておくことは大事かと思います。

概算見積でこれをやるのは難しい……と言われそうですが、概算なればこそ数字を仮当てしてでも行うべきものだと思っています。
というのもぼんやりした概算を出して「じゃあこれでオッケー、この金額で発注する!」と言い出し、実は作業範囲が見積もり想定よりも大きかった…みたいな話はすごくよくあるため。
こういう場合に細かい見積り根拠を持っているとクライアントの説得が容易になりますし、正式見積もりを明確に作成することができます。
まともにスコープ定義をしているのであれば、おおまかな対象ページや素材数は見通しが付くはずなので、これができない、というのは要件定義をきちんとしていない証拠でもあります。

こうした細かい見積もり項目を立てて、かつ明確に説明するためには、プライスリストと各作業ごとのざっくりサンプルを作成しておくことは必須かと思います。
ぶっちゃけ、コーポレートサイトのWEBサイトなどはある程度パターン化できるものではあるので、プライスリストとサンプルがないというのはWEB制作という仕事が15年以上続いている以上当然だと思うのですが…このあたりまだまだ追っついていないなぁという実感はありつつ。
(案件ごとに難易度が変わるんだからプライスリストなんて作れないよ!という反論は予想できるのですが、アーティストでもあるまいし通じないと思います。むしろそんなスタンスだと一番困るのはクライアントで、価格の妥当性を判断する要素がなくなり、結果彼ら自身の金銭感覚に躍らされることになるでしょう)
で、こういう明快な見積もりを作っておくと、後述するよくあるトラブルで最も多い「制作中の追加依頼」に対して見積りの変更がかけやすく、またクライアント側が追加依頼をするとどこが増えるかが事前にわかるので一定のプレッシャーをかけられる効果もあります。

 

■見積もり関連であるあるトラブル

でー。見積書としてはこんな感じなのですが、見積書の話になると必ずトラブル絡みの話も避けられないので書き散らしておきましょう。

・見積もり根拠に関するトラブル
スコープ定義書と見積書を作成して提出、説明して「なんだこれは!」と無茶を言われたりするトラブルはよくあります。経験の少ないマーケティング部のWeb担当者などがやらかしがち。このトラブルを解決するためには、スコープ定義書で「どのフェーズでどんな作業をし、どんなコストがかかるのか」をきちんと説明できることが重要です。例えば要件定義にカネがかかる、ということはWEB制作に明るくない人には理解し難いですが、理解していないからそう思うのは当然。きちんと説明しましょう。
また、項目が曖昧でクライアントが制作会社が何をするのかをはかりかねるというケースでもトラブルになりがちです。きちんとわかるようにスコープ定義書・見積書で記載しましょう。

・値下げに関するトラブル
見積書を一式提出して検討してもらった後、「上司にもう少し値段を下げろと言われまして…」といわれるのはほぼ毎回のこと。デキる営業・ディレクターなら出精値引分を予め考えて見積書を盛っておくでしょうし、そうでないなら、見積もり内容の再検討を行います。
この時、見積書の項目をそれぞれいじって行くのですが、「外注に出す部分」「原価のかかる部分」「作業時間を切り詰めにくい部分」を除き、項目の再構成を行いましょう。
で、これらの除外した根拠や縮小した部分をきちんと説明し、「これだけ頑張ったんでこれで承認を…」とお願いするとクライアント側担当者が納得でき、かつ上司に説明しやすいのでおすすめです。
それ以上に無理を言ってくるようなクライアントに対しては、費用面でなく代わりに、「修正回数の制限」や「瑕疵担保期間の縮小」などの条件を提示することで少しでも好条件を獲得すること。
いずれの場合にせよ、値下げの交渉は一方的に飲むのではなく、「値下げ交渉をきっかけに、制作フェーズでの炎上要因をブロックする」方向に進めるよう心がけたいものです。

・スコープ外作業に関するトラブル
当初依頼されていないような範囲も「当然これはやるんだろう?」と押し付けられてしまうのもありがちですが、これは見積もりの説明を行った際の説明不足が原因。これを避けるためにもきちんとスコープ定義書を固め、案件範囲外であることをクライアントに認識させることが大事です。
「やって当然、とおっしゃいましたが、スコープ定義を見てください。それは範囲外で追加依頼となります」と言える体制を作っておかないと、受注側が下手に出ることになり、泣きます。

・追加依頼に関するトラブル
で、作業中に制作範囲外とはわかっていても追加作業が発生する場合もあります。こういうパターンは「追加費用払うんで」といわれるなら良いのですが、「予算内で一つ頼むよ」といわれることも多いです。すごく。で、そこで蹴れるか蹴れないか、は見積書の精度ときちんと説明が受け止められているかにかかっていると思います。本当にきっちりと見積書を確定できているのであれば追加作業がいくらかかるのかは明確ですので、これを明示した上で「泣く」か「追加費用をお支払いいただく」か「ローンチを優先し、ローンチ後に追加作業として新規発注をいただく」かを選んで出すと良いでしょう。

いずれの場合もクライアント側WEB担当者が人非人な場合、ごりっと押し通されたり、営業担当が勝手に請け負って現場が泣いたりしますが、ディレクターがきちんと見積もりとスコープ定義書を作成し、これをクライアント・営業担当・デザイナー・コーダーに周知徹底しておくことで少なくとも戦う素材はできると思います。

 

というわけで好き勝手書いたのですが、インターネットの普及から15年、Web制作という仕事も15年近く存在するのに、未だWeb制作という仕事が幼く不安定なものであることは反省すべき点が多いなと感じています。制作サイドの人間が愚痴や大それた話は大好きな割に、クライアントやそれになりうる人の啓蒙はあーんまりしていないよなぁとも感じるところです。
なので、WP-Dさんのエントリは非常に興味深く拝見しましたし、このエントリも元制作側今クライアント側の話としてほんの少し参考程度に見られ、あれこれWEB制作について語られればいいなぁと思います。


2005年の本ですが、未だ現役でバイブルとして役立ちます。

コメント

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