【F1入門】ピット戦略2013年版

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さてさてさてさて、前回エントリでタイヤについて説明を終えましたので、レースの展開を大きく左右する「ピット作戦」について解説しましょう。

■2013年のピットインレギュレーション

タイヤ戦略とピットイン戦略は常に一定というものではなく、その年その年の環境によって大きく変化するのが特徴です。
例えば過去には「レース中の再給油とタイヤ交換が可能」な時期や、「タイヤ交換が禁止、レース中再給油のみ可能」な時期などがあり、その環境に応じて、「レース中に取るべき作戦」は大きく変わっています。
2013年現在は大きく下記のようなルールが適用されます。

・タイヤを提供するピレリがレースごとに2種類の特性の異なるタイヤを用意、各マシンは決勝レース中にこの2種類のタイヤを必ず1度ずつ使わなければならない(雨が降りレインレースが宣言された場合を除く)
・レーススタート時は予選Q3を出走した上位10台は予選最終周に装着したタイヤをそのまま使わなければならず、11位以下は用意された中から好きなタイヤを選ぶことができる(同レインレースを除く)
・レース中の再給油は禁止、スタート時点でタンクに搭載したガソリンでゴールまで走らなければならない

2010年まで行われていたレース中の再給油はマシン重量に大きな変化をもたらすため、レース終盤まで「どのマシンがどの程度早く、実質的な順位がわかりにくい」という欠点がありました。また、給油量の作戦があまりにもレースに影響を与えてしまうことからも、現在はルールから取り除かれています。
タイヤ交換のみが可能になった現在、ピットイン時間は神がかりに短くなっており、2013年マレーシアGPではレッドブルチームがついに2.05秒という途方もない早さでタイヤを交換しレースに送り出したという記録が生まれています。

■基本的なタイヤ交換作戦

前エントリで触れたようにピレリタイヤが用意するタイヤはプライムとオプションの2種類。しかしどちらのタイヤも1セットでは完走しきれませんし、レギュレーション上も2種類のタイヤを必ず使わなければならないと規定されているため、各マシンとも1レースで最低1回のピットインとタイヤ交換が必要です。

多くのレースでは2回~3回のピットインが行われ、1レースで3セット~4セットのタイヤを使うのが近年のセオリーとなっています(ピレリタイヤが意図的に摩耗しやすいタイヤを製造しているため、ピット回数は増える傾向にあります)。
レースでは全レース行程をピットインで区切った各間隔を「スティント」と読んでいるので、これは憶えておいたほうが良いでしょう。

例えばレース中に2回のピットストップを行う場合、
・スタートから最初のピットストップ = 第1スティント
・最初のピットストップから2回目のピットストップ = 第2スティント
・2回めのピットストップから3回目のピットストップ = 第3(最終)スティント
と呼びます。

この各スティントをどのように組み立てて、最終的により上位に位置できるかを問われるのがピット作戦です。

基本的なピット作戦で問われるのは次の3要素です。
・何回ピットインするか
・どのタイミングでピットインするか
・どのスティントにどのタイヤを割り当てるか

まず回数ですが、「想定できる最小回数で済ませるか」「多めの交換を選ぶか」が作戦として考えられます。1度のピットインをする場合、ピットロードを走りタイヤを交換することで20数秒のロスが発生するため、これは非常にシビアな選択です。タイヤ交換作業でのミスによりさらに数十秒を失ってしまうリスクもあるため、できるかぎり少なく済ませたいと思うのが普通です。
しかし、タイヤ交換を少なくする場合、劣化したタイヤで走る時間が長くなってしまう、という側面もあるため、一概に完璧な作戦とも言えません。
ピットイン回数を1回多くして、全体的にタイヤ性能の高い状態で走り、ピットインのロスタイム、さらには追いぬかれてしまう他のマシンよりも早いタイムを出してしまおう…と考えるチームも出てきます。リスキーですが予選までに未使用のタイヤが多い場合など、この選択をチャンスに変えられる可能性があります。

次に「どのタイミングでピットインするか」も重要な要素です。基本的には各スティントを等分すれば良く、これにオプションタイヤとプライムタイヤの寿命を足し合わせることで基本的なスケジュールが完成します。例えば「オプション⇒プライム⇒プライム」の場合は、「短スティント⇒長スティント⇒長スティント」となります。
「どのスティントにどのタイヤを割り当てるか」はこのスケジュールの計算に付随してきます。レーススタート時は踏ん張りが効いて加速に優れるオプションタイヤを選択したいので、ほとんどのチームは第1スティントにオプションタイヤを選択します。その後、プライムタイヤとオプションタイヤのうち、マシンの相性の良い側を多く使うなど組み合わせが決定されていきます。

ピット作戦は基本的にレース前にチーム・ドライバー間で共有されますが、1つの作戦だけでなく、レース状況に応じて選択する「プランB」が用意される場合や、レース状況に応じて柔軟に変更されていきます。

■バトルとしてのピット戦略

タイヤのタレが激しくなり、ピットインのタイミングが近づいてきた時、チームは「スケジュール通りのピットイン」「アンダーカット」と「カバー」、「ステイアウト」の4つの戦略のうちどちらかを選択することになります。

アンダーカット」とは現在履いているタイヤの性能が劣化しタイムが落ち始めた状況で、先行するマシンよりも先にピットインして、古いタイヤで走る先行車よりも速いラップタイムを稼いでおき、前車がピットインしたタイミングで抜いていく、という作戦です。
アンダーカットの成立条件としては「先行車とのタイム差が数秒で、先行車がピットインするまでにその数秒の差を詰められること」が必要で、また「アンダーカットを狙うタイミングで、ピットアウトした場所が混雑していないこと」が重要です。周回遅れやバトル中の下位チームの後ろにつけてしまった場合、この追い抜きに手間取ってしまいタイヤ性能が最も発揮できる時間にタイム更新ができなくなってしまうためです。
またアンダーカットをする場合、他車と比べて数周分タイヤを早く使ってしまうため、終盤戦でタイヤの劣化が他車よりも激しくなる…といった展開になる場合があります。
アンダーカットを仕掛けたのに結局先行車を抜けなかった…という展開になることもしばしばあります。

カバー」とは、後続車もしくは先行車がアンダーカットを仕掛けてきた時に同時にピットインする、もしくは後続車よりも先んじてピットインする作戦です。
アンダーカットのメリットを潰すことができるので、ピット戦略で抜かせない守りの作戦と言えます。

ステイアウト」とは、先行車や後続車が先にピットインしても、コース上にとどまりピットインのタイミングをずらす状況を指します。
ライバル車との直接の差を気にするよりもレース全体として戦略を組み立てたほうが有利な場合や、天候状況が安定せず現在のタイヤをキープしたほうが有利と判断した場合に取られる戦略です。
傍目には「ステイアウトを選びスケジュール通りに運ぼうとしているのか、他チームの動きが読めていないのか」がわかりにくいところはあります。

■波乱時のピット作戦

レースがスムーズに進行し、バトルをはさみながらも概ねスケジュール通りにピット作戦を遂行できる場合は良いのですが、レースには大きなイレギュラーが発生する場合があります。

・天候の変化により路面状況が変化した場合
・大規模な事故が発生し、セーフティーカーが出動した場合

・天候が変化し、路面状況が変化した場合はドライバーとチームの判断によってレインタイヤもしくはドライタイヤへのタイヤ交換を行います。
近年は正確な天候状況を掴めるため、「10分後に第1コーナー側から雨が来る」などといった予報が無線でドライバーに共有されます。そして雨が降ってきた場合は、その路面での運転感覚やタイムの落ち具合を見て、タイヤ交換が指示されます。
レースで発生する多くのタイヤ交換はチームの指示で行われますが、降雨時はドライバーの感覚が重要です。こうしたミックスウェザーでのタイヤ選択センスが桁違いに優れたドライバーとしてマクラーレンのジェンソン・バトンがいますが、彼のようなドライバーが他車に先駆けてタイヤを交換した場合、他チームはそのマシンの走りを見て「どのタイヤで走るのが正解か」を判断します。

・大規模な事故が発生してセーフティーカーが出動、数周をセーフティーカーの後ろで周回シなければならない場合、またとないタイヤ交換タイミングが訪れます。
セーフティーカー出動時のタイヤ交換はピットインのタイムロスをゼロにできるため、多くのドライバーがピットに駆け込みます。ここで多くのドライバーがタイヤ交換を済ませるため、結果的に順位に大差がなくコース復帰ができ、レースをゼロからスタートできる例も少なくありません。
逆にセーフティーカー先導タイミングでステイアウトを選択し、再スタート時の順位を上げる…という選択肢もないわけではありません。その後のピットインスケジュール次第では大幅なジャンプアップができる場合があるため、大きな賭けになってくるでしょう。

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