【F1入門】F1のタイヤに関するあれこれ

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さてさて、モータースポーツの華麗な見どころと言えば豪快なオーバーテイクですが、ピット作戦も地味ながらレース全体の展開を大きく左右する重要なポイントです。
……と、説明をしようと思ったのですが、その前に理解しておかなければならないものがあります。「タイヤ」です。F1においてタイヤは極めて大きな要素となっており、タイヤの理解はF1を楽しむ上で欠かせません。


■そもそもF1のタイヤってどんなものなの?

ピットイン戦略の説明に入る前にまず、タイヤの説明をしておく必要がありましょう。
300kmの距離でレースをするのがF1ですが、「たった300kmを走るためになぜ何度もタイヤ交換をしなければならないのか」というのはF1初心者が必ず疑問に思う質問です(確かに、東京-名古屋間を走るのにタイヤ交換する、というのは不思議な話ですね)。

F1に使われるレーシングスリックタイヤというのは、市販乗用車につけられたそれと全く異なる存在です。
レーシングスリックタイヤは摩擦により熱が発生すると容易に溶けドロドロネバネバした状態になり、このネバネバで「路面に張り付いて」摩擦力を発生させる仕組みとなっています。この強烈なネバネバにより、急な加減速や高速なコーナーリングが可能になります。

このネバネバなタイヤを使ってコースを走ることでF1は凄まじいスピードを出すことができるのですが、ネバネバを地面に押し付けて走るということは、つまり「スティック糊を紙の上にあててすべらせる」のと同じ事、どんどん摩耗していきます。摩耗の度合いが進むとタイヤの性能はどんどん悪化し、最悪パンクをしてしまうため、ピットインしてタイヤを交換する必要があるのです。

F1のタイヤはこの摩擦力を高めるために、常に一定の温度を保つ必要があります。レース前、タイヤにカバーがかけられていてギリギリまで被せられたままになっているシーンが見られますが、あれはタイヤウォーマーというもので、静止状態でのタイヤを加熱させられるものです。あのウォーマーでタイヤの温度を90度程度まで上げているのだとか。
また、フォーメーションラップやセーフティーカー出動中に、各ドライバーが極端な蛇行運転をすることがありますが、あれもタイヤの温度を一定に保つため。決してノロノロ運転に退屈しているわけではありません。

■F1のタイヤはコース状況も変える

これがタイヤの特性とピットインが何故必要か、という理由ですが、このタイヤ特性を知ることで、レース中によく交わされる話題がさらにいくつか理解できます。

レーシングスリックタイヤがネバネバで摩耗していく…ということがわかりましたが、この摩耗したタイヤが2つ、コースに影響をもたらします。

まずはコースの中で全員が通っているレーシングラインには何台もの車が何回もタイヤをこすりつけるため、タイヤのゴムが付着します。これによりタイヤ自体のネバネバだけでなく、レーシングライン自体もより高い摩擦力を持ち走りやすくなります。フリー走行から決勝の終了まででどんどんコンディションが改善されていくこの状態を「ラバーが乗る」と呼びます。
全セッションが晴れであれば良いのですが、フリー走行や予選、決勝の序盤で雨が降るなどしてラバーが乗らないことがあります。
こうしたコンディションでレースが進み決勝で晴れた場合、CS放送の解説森脇さんが「コースコンディションがどんどん良くなっていきますからね」とコメントすることがありますので、注意して聞いてみると良いでしょう。

レーシングラインにラバーが乗ることはわかりましたが、レーシングライン以外のコース状況はどうでしょうか。これはレース終盤戦の映像を見れば一目瞭然なのですが、ちぎれたタイヤカスがf飛び散りまくって非常に汚れた状況になります。
このタイヤカスはテレビで見ているとそれほど大したことがないように見えますが、実際は「マジックペンのマッキーくらいの太さでひじきのような形状をした物体」が積み重なっており、これを踏むとタイヤに張り付き、性能を劣化させます。
オーバーテイクや周回遅れで後続車を先に行かせる場合などはレーシングラインを外れて走行しますが、この時にこのヒジキを踏んでペースを落としてしまうことがしばしばあります。

■「オプションタイヤとプライムタイヤ」

さて、レース前やレース中に「オプションタイヤ」や「プライムタイヤ」といった言葉が多く出てきますが、これは一体どのようなものでしょうか。

現在F1にタイヤを供給しているのはピレリですが、このピレリがF1用に製造しているタイヤとしては以下の様な種類があります。

・ドライタイヤ
スーパーソフトタイヤ(ロゴ色:赤)
ソフトタイヤ(ロゴ色:黄)
ミディアムタイヤ(ロゴ色:白)
ハードタイヤ(ロゴ色:シルバー)
・レインタイヤ
インターミディエイトタイヤ(ロゴ色:ライトグリーン)
フルウェットタイヤ(ロゴ色:ライトブルー)

ドライタイヤは4種類が存在し、スーパーソフトタイヤは最も柔らかく、熱が入りやすいため履いてすぐに速いタイムを出すことができ、タイヤのピーク時に最も高いグリップを発揮できる特徴を持っています。その代わりに摩耗と劣化が極めて早く、長距離を走ることができません。
ソフト、ミディアムと段々固いタイヤになっていき、ハードタイヤが最も固いタイヤとなります。
ハードタイヤは熱が入りにくく、最も良い状態でもソフトタイヤほどのグリップがありませんが、タイヤの寿命は最も長く、また安定したペースを出すことが可能です。

ピレリは各レースでコースの特性に合わせてこの4種類のうちの2種類を持ち込み、各チームはこの2種類のタイヤを使ってレースを進めます。
この2種類のうち、固い側のタイヤを「プライム」、柔らかい側のタイヤを「オプション」と呼びます。ソフトタイヤとミディアムタイヤが使える場合、ソフトがオプション、ミディアムがプライムです。

2011年以降はエンターテイメント性を増すために各タイヤのどれも摩耗が激しく、「交換しないとレースを走り切れない」ように製造されています。また、各タイヤごとの特徴を以前よりも明確にしているため、タイヤ戦略はこれまで以上に面白いものとなっています。

レインタイヤはインターミディエイトタイヤとフルウェットタイヤが存在します。
どちらも溝が付けられた雨用のタイヤで、路面がちょっと濡れている程度ならインターミディエイトを、完全に雨がひどい状態であればフルウェットタイヤが使われます。
ドライ用のスリックタイヤは雨が降ってきた時に全く走行不可能になるため、この2種類のタイヤの使いどころは重要です。しかし一方でレース中に雨が上がり、コースが乾いてくると急激にタイヤの温度が上昇し、ボロボロに擦りきれてしまいます。
レインタイヤの選択は1周判断を間違えるだけで5秒10秒を失いかねないので、このあたり、ドライバーとチームの判断力が問われる非常に面白い要素と言えます。

■タイヤのトラブル

メカニカルトラブルが少なくなった現代F1において、レース展開を動かす要素としてタイヤの重要性は年々高まっています。どのようなタイヤトラブルが起きるかも見ておきましょう。

タイヤの劣化(デグラデーション)
ここまでで挙げたように走れば走るほどタイヤは劣化し、走行を難しくしていきます。タイヤを交換したドライバーと古いタイヤを履き続けているドライバーでは全く同じ走行ができません。各ドライバーが「どのタイヤを、どの程度」使っているかを把握できると、観戦していても展開が読みやすいと思います。

クリフ(タイヤの崖)
ピレリタイヤ特有の特性で、注意して見る必要があります。
通常タイヤは(下記に挙げるようなトラブルを除いて)徐々に劣化が進みタイムが落ちていくものですが、ピレリタイヤの場合、ある劣化のポイントを超えるとタイムが一気に落ちる特性を持っています。レースペースが崖のように落ちることから「クリフ」と呼ばれています。
2012年はこのクリフによって終盤5秒以上タイムを落とし、どんどん他のドライバーに抜かれていくシーンが見られています。

グレイニング
タイヤ表面のゴムがささくれたような状態になることで、主にタイヤの温度が上がらない状態で無理にマシンを走らせ、タイヤを綺麗に摩耗させられないことで発生します。
グレイニングが発生するとタイヤ表面が路面に対して均一にならないため、グリップ力が低下してタイムの低下に繋がります。
テレビ視聴でも、マシンのタイヤが均一でなく縞模様が見えることがあります。これがグレイニングです。

ブリスター
逆にタイヤ表面の温度が高まりすぎることで発生するのがブリスターです。タイヤの温度が高温になりすぎると、ゴムに含まれる水分や油分が膨張して気泡を作り出します。この気泡が破裂陥没して穴が空いた状態です。陥没したところをこじらせて走るため、走るほどに周囲が引き攣れるように裂けていきます。グレイニングと比べてより細く黒い縞として現れます。

フラットスポット
急ブレーキを踏みタイヤがロックした状態で一面だけタイヤを削ってしまう状況です。
これによってタイヤは綺麗な円状ではなくなるため、マシンに不要な振動を起こしてしまいドライブしにくくなります。数周走ることでフラットスポットを均していけることが多いですが、フラットスポットが原因でタイヤがロックしやすくなり、さらなるフラットスポットの発生を招いてしまうこともあります。

スローパンクチャー
タイヤにごく小さな穴や亀裂などが発生することにより、ゆっくりと空気が漏れている状態です。
すぐにピットに戻ってタイヤ交換が必要になります。

パンク(バースト)
タイヤが破裂して一気に中の空気を失ってしまう状態です。他マシンとの接触や、パーツの破損によりタイヤが切り裂かれてしまうことによって発生します。バーストだけしてそのままピットに戻れれば良いのですが、状態が悪い場合、ちぎれたタイヤがホイールから脱落する、ちぎれたタイヤがサスペンションやリアウイングを叩いて破損させる、マシン下部にダメージを負ってしまうなどによりレース復帰が難しくなるケースが多いのが特徴です。

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