開幕戦を終えたところで再びF1入門です。
開幕戦でも数多くのオーバーテイクが見られましたが、現在のF1にはKERSとDRSというオーバーテイクを助ける仕組みが導入されています。
これはいったいどんなものか、見てみましょう。
■KERSとは
・ざっくり言うと ⇒ 毎周6.67秒間自由に使えるブーストボタン
運動エネルギー改正システム(Kinetic Energy-Recovery System)の略称で、「カーズ」と発音する。
ブレーキング時のに発生するエネルギーを回収蓄積して、通常のエンジンパワーに加えて一時的に強力なパワーアシストをする装置である。
1周あたり400kJのエネルギーが利用可能となっており、毎周6.67秒までハンドルに設置されたボタンを押すことで81馬力のエクストラパワーを得ることができる。
6.67秒のリセットはスタートラインで行われるため、ホームストレートをジャストでまたいだ場合、最大13秒間の連続使用が可能。
F1中継では時折「電池型の表示で容量がぐぐぐと減る」表示がされており、「容量がぐぐぐと減っている」時がKERSを使っている状態だ。
この装置は2009年導入に導入されたが、そのきっかけはいくつかの理由がある。
・2007年からエンジン開発が大幅に制限され、技術競争の幅を広げるために新装置として導入された
・原油の無駄遣い、二酸化炭素を排出する、など化石燃料へのバッシングが高まる中、環境に配した技術開発が求められた
・コース上でのオーバーテイクが年々減少しており、オーバーテイクの機会を増やすための装置が求められた
KERSはこれらを解決するものとして期待をもって採用された。が、当初は問題が多かった。
KERSはオーバーテイクの機会を増やすために採用され、「オーバーテイク時に利用して、爆発的なパワーで追い抜きを行う」ことが期待されたのだが、実際に運用してみると「追い抜かれそうな側が、オーバーテイクされないために利用する」方がメリットが大きいことがわかってしまったのである。つまり、後ろから追い上げる側がKERSを利用した際、前を走るドライバーも同時にKERSを利用すればエクストラパワーを相殺できる上、コーナーの立ち上がりやストレートで先んじて利用することでテールトゥノーズにつかせない(よってスリップストリームに入らせない)といった防御的利用が可能であり、コース上のオーバーテイク機会をさらに減少させることになってしまったのだ。
さらに2009年はKERSの搭載が任意であったが、KERSが40kgと非常に重く非搭載車の方が搭載車よりもコーナーリングで有利になる他立ち上がりが早いなど、ぶっちゃけ搭載しない方が早いので誰も使わなくなり、結局2010年には紳士協定で搭載されないことになってしまった。
その後、KERSの扱いについて長い競技が行われたのち、DRSとセットでの復活が決定し、この組み合わせはF1に新しい楽しみを与えている。
■DRSとは
・ざっくり言うと ⇒ 追い抜きできそうな状況下で、指定区間で使えるオーバーテイク専用可変ウイング
DRSはDrag Reduction Systemの略で「リアウイングを運転中の操作によって稼働し、ダウンフォースを減退させる」装置のことを指す。
具体的には作動させるとリアウイングがパカッと倒れ、空気抵抗が低減することでマシンの加速が増す装置。
DRSの利用中は10km/h~15km/hの加速補助が得られるなどその効果は非常に強力で、2011年の導入以来、オーバーテイクの機会が激増し、当初の「オーバーテイクの機会が少なくなっていたF1へのエンターテイメント性の向上」という目的を超えて「オーバーテイクを容易にしすぎる」と言われるほどとなっている。実際に「DRSを使ってオーバーテイクしたが、翌周には逆にDRSを使われてオーバーテイクされる」といったシーンも少なくない。
使用可能タイミングは自由に使えるKERSと違い「オーバーテイク用」としてきっちり定められている。
・フリー走行・予選時
・「DRS使用可能区間」でDRSを利用できる
・雨天やイエローフラッグが出た場合など、DRS利用が禁止されることがある(DRS利用禁止・再開は中継時に表示される)
・決勝レース時
・レース開始3周目以降使用可能(DRS解禁は中継時に表示される)
・サーキットごとに定められた計測ポイントで、他車の1秒後方以内にそのドライバーがつけた場合、計測ポイントよりも先にある「DRS使用可能区間」でDRSを利用できる
・雨天やイエローフラッグが出た場合など、DRS利用が禁止されることがある(DRS利用禁止・再開は中継時に表示される)
レース中継では「後ろを走っているマシンのリアウイングがチリトリのようにパカッと開いているとき」や、オンボード映像で表示されるタコメーターのDRSボタンの点灯で確認できる。
■KERS/DRSによるオーバーテイク戦略
KERSとDRSという2つの異なるパワーアシスト装置があることで、現代F1のバトルは非常に戦略的でエキサイティングなものとなっている。
例えば「先行車の1秒以内につける」という状況は、単純に「オーバーテイクのチャンスがある」ということだけを意味するのではなく、場合によっては「1秒以内につけてDRSが使えることで自己ベストのタイムが出せる」というケースが生まれることもある。また本来なら前に出れない遅い車がDRSでオーバーテイクできることでDRSのない場所で抜き返されるというシーンも多く見られている(ピレリタイヤの導入によってDRSに関係のないオーバーテイク機会が増えているという側面もある)。
KERSも2009年のような「後続車が加速する場所で利用して頭を抑え続ける」といった防御的利用だけではなく、「DRSを使われるストレートの前にスリップストリームに入られないために使うか、DRSを使われるストレートで使うか、その場ではあきらめて抜かれた後の立ち上がりの加速のために使うか」などの選択肢が生まれることで展開に多様さが生まれているところが面白い。
2000年代と比べると実に「数十倍のオーバーテイク」が行われるようになったのだから、これらの導入は実に成功だったと言える。
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コメント
@daichi http://t.co/6v9b0bwenn DRSとKERSはEvernoteにメモがあったのでさっくり出すよ。
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うおぉF1のルール改正ってすごいな。 RT @raf00: @daichi http://t.co/go1rqN7gzW DRSとKERSはEvernoteにメモがあったのでさっくり出すよ。
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“【F1入門】KERS/DRSとオーバーテイク — 乱れなよ、そして召されなよ” http://t.co/clPp02MLvM
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