PayPay・前澤氏キャンペーンをただのばら撒きと考えるのは早計

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前澤氏の「100人に100万円あげちゃうよ」キャンペーンが大爆発していることで、ネット界隈が大いにざわついている。

「100万円はほしいけれど前澤に屈するのは…」といったプライドと欲の戦いを繰り広げられる著名ネットワーカーの苦悩はをとても興味深く眺めているのだが、ちょっと気になるのがこういう考察。

「PayPayに続き前澤氏もばら撒きを始めた。広告予算を直接ユーザーに届ける時代の到来で広告は終わるのか!」

raf00のタイムラインでこうした考察が散見され、ちょっと待って、ちょっと待って……と思っていたら徳力さんまでこうした内容のブログエントリを投げられていた。

前澤氏1億円バラマキ企画が示す、「広告」から考える時代の終わり

ちょっと待ってほしい。
PayPayも前澤氏も企業・個人としてこれまで見たことがない額の金額を直接ユーザーに還元するキャンペーンを実施されているが、単純に「ばら撒きは強い」と分析してしまうのはマーケティングの考え方としてあまりに軽率だ。

ただ「ばら撒く」だけであれば、広告として「リワード広告」という手法がありスマートフォン界隈では猛威を振るっているし、ユーザー還元はセールなどの形で多くの企業が実施している定番の手法でもある。
キャンペーンの額を大きくすれば話題になるのはこれまで多くの例が存在している。「なんとステーキが1枚29円!」なんてキャンペーンを打てば東京に1店舗しかないステーキ屋のtweetが万単位で拡散したりもするのだから。

それだけに今このタイミングで「ばら撒きってすごい!」と感想を漏らしてしまうのはちょっと早すぎる。PayPayと前澤氏のばら撒きが何を狙っていて、どう作用するのかをきちんと考える必要があり、そこをちらりと考えれば「PayPayや前澤氏」と一括りにしてしまうのは見解が浅いと考えを改められるはずだ。

◾️PayPayはBtBtCの必勝戦略を取ってきた

今語られているPayPayの500億円分20%還元キャンペーンはまるで「既に終了済み」のように語られているが、戦略としてはまだ進行中だ。昨年、PayPayで500億円分が一気に利用され、電子マネー界隈に衝撃を与えているが、この後10日のタイミングで100億円分がPayPayに還元され、今週末は還元ポイント利用祭が発生することだろう。
PayPayの500億円キャンペーンは消費者側にとっては典型的なブースト広告で「後発の電子マネーとして利用登録のハードルを一気にぶち壊したい」という目的を大いに達成しているが、同時に加盟店戦略にもなっている。初期のタイミングで加盟しておけば500億の利用に参加できるだけでなく、翌月には100億円の還元分利用タイミングの恩恵に預かることもできる。さらにこちらは公開されているにもかかわらずあまり語られていないが、PayPayはスタートから当面導入費・決済手数料が無料。これは参加しないわけにはいかない。

raf00 は昔、クーポンサイトの運営を担当していたことがあったのだが、クーポンサイトや電子マネーなどなどのBtBtCビジネスはユーザーと加盟店を両方同時に攻略しなければならないのが非常に厄介だ。

ユーザーからすれば「普段使うような加盟店がたくさんなきゃ利用する意味がない」と渋るし、加盟店からすれば「で、ユーザーどのくらいいるんですか?いないのにオペレーション増やすわけにはいきません」と渋るのが常で、サービス立ち上げ時にはどちらもゼロなのだからこれはもうめちゃくちゃ苦戦する。そして最初で躓くと「寂しい実績」が印象付けられてしまうので挽回にとんでもなく苦戦する。このタイミングで広告費をバカスカ提示しても効果はない。だって加盟店少なくて使えないんだもの。

こうしたビジネス環境の中、PayPayの500億キャンペーンは最初の壁を見事に突破できる施策だ。ファミマ・ビックカメラを味方につけたことでユーザー向けには「とりあえず使える」環境を用意しているし、加盟店候補に対しては「500億+100億」という確実で具体的な利用規模を提示できる。

規模の大きさや本当にそれをやる度胸には正直ぶったまけたが、考えてみればBtBtCとしては実に王道、「ドカンとばら撒けば話題になるよね」というだけではない戦略がある。

今のところアプリ使いにくくて継続利用したくないけどね。Suica最高。

◾️前澤氏の100万人戦略

PayPayは純然たるビジネスとしてばら撒きを行なったが、前澤氏の100万円企画はイメージ戦略だ。

ZOZOが軌道に乗ってからの前澤氏は「金」を語るのではなく「夢」を語るキャラクターにイメージチェンジをしている。「お金じゃないんだよ、夢なんだよ。みんな夢に乗ろうぜ!」という無邪気キャラを装っている。

のだが、取り上げられるのは高額な絵画を買ったり、宇宙旅行を金で買ったり、ダンスが上手い剛力さんを侍らせたりといったビリオネアな側面ばかり。庶民の収入レベルで「金=夢」をイメージさせることは難しい。

またそもそも前澤氏と言えば「送料舐めんじゃねえ!」とブチ切れ炎上するなど消費者と敵対するシーンがネットワーカーに記憶されている人物でもある。現在の無邪気キャラでフォロワーを拡大し100万人に達するのはそりゃあ難しかろう。

これを打破するのが今回の100人100万円キャンペーンだ。大金持ちだが消費者には関わりのない存在だった前澤氏が、消費者に直接現金をばら撒くんだから喝采を浴びないわけがない。このキャンペーンによって見事「前澤氏は金という夢を見せてくれる人だ」と認識されることになる。お金くれるんだよ、そりゃあみんな褒める。欲深い市民のヒーローになる。

このフォロワー集めを「あえてTwitter広告を使わなかった」と徳力さんは言及されているが、そりゃあしないでしょう。これを実施するのがたとえホリエモンでもヨッピーでも、徳力さん本人であってもTwitter広告でキャンペーン張ることはしないでしょう。だって本人の発信力影響力を(金の力で巨大にブーストして)誇示できる機会なんだから。広告噛ませるという発想自体が遠回りすぎる(キャンペーン設計の課題はあるものの)。

で、前澤氏のキャンペーンは大記録を打ち立てたけれど、マーケティング目線で注目したいのはむしろこの後の展開だ。

キャンペーンによって獲得したフォロワーは結果発表後どのくらい減衰してしまうのか、発表の後で前澤氏は讃えられるのかあるいは恨まれるのか。

今回の大記録そのものを成果としてビリオネアとしての武勇伝に加えて終わるか、「金=夢」のプロモーションを継続するのか。

などなど、注目すべき点がたくさんあるのだから「ばら撒きすごーい!たーのしー」と言っちゃうのはどうかと思うのですよ。