遅ればせながら、新しい有料コンテンツプラットフォーム「cakes」が9月11日に正式オープンしたので、あれこれ見てみたい。
このcakesはこれまでの有料メルマガのような「1発行者につき1課金」というものではなく、サービス全体の利用料金が週150円というものになっているので、クレジットカードをお持ちの皆様はぜひ試しにアクセスしてその記事を眺めてみると良いだろう。1週間もあればかなりいろいろと読み歩けて、続きを読む必要がなさそうだなと思ったならすぐに解約も可能。500mlペットボトル1本分の値段でお試しできるのだから、とりあえず見てみて損はないと思う。
■有料コンテンツ業界の入口的な存在
冒頭でまずお試しあれとおすすめしてみたが、cakesの「週150円」というお値段は読者である我々にとって、非常に良心的な設定となっていると言えるだろう。その安さで非常に充実したコンテンツが揃っているのだから、損は感じられないはずだ。誰か注目する人がいるなら、その人の記事を読むだけでも満足できる。さらに他の人に目を向けていけばどんどんお得さが感じられる。
この良心的な価格設定は、有料コンテンツの入り口として最適なものであると考える。
お気に入りの人が有料メルマガを発行しているなら、それも読んでみたくなる…そういった有料コンテンツ業界にとっての入り口にもなってほしいなと、そう期待させるサービスだ。
■充実した執筆陣、充実した記事群
まず、なにより魅力的なのは執筆陣の豊富さと充実した記事群だ。
津田大介氏、山本一郎氏といった有料メルマガでもおなじみの面々から、岡田育氏やyomoyomo氏、峰なゆか氏、金子平民氏などの「ネットこの界隈」では鈍く輝く実力派、岡田斗司夫氏や大槻ケンヂ氏といった問答無用の著名人など、著者一覧を見るだけでグッと来るメンバーが揃っている。
このチョイスの渋さ目利きの良さはさすが名編集者加藤貞顕さんのサービスだけはある、と言えるだろう。
(そういえばこの中に岩崎夏海氏がいねーなーとか思ったりしないでもないでもないが、まぁそこはスルーしよう。いいか、スルーするんだ。ブコメ禁止。絶対に禁止だ。お兄さんと約束だゾ?)
内容も非常に興味深い。
有料メルマガでは各著者がそれぞれの持つ「役に立つ情報」を全力で発行されているが、cakesで並んでいるのは「語り」が非常に目立つ。岡田育氏や山本一郎氏、金子平民氏の記事はブログやメルマガのスタンダードな語りとは違った雰囲気を感じさせる──文芸誌のような印象のあるものとなっていて、とても新鮮だ。また他著者の文章も、ブログやメルマガで見慣れた「端的で直接的な文章」ではなく、紙媒体的な「丁寧でゆったりとした文章」を用いているものが多いのが非常に興味深い。
後述するが、cakesの記事表示形式が時系列順ではなくユーザーの行動に合わせて決定されるものとなっているため、「時間軸」が読めないところも雑誌的な印象を強めている。
アーカイブされた様々な記事を「いつ読み始めてもいい」という方向性はブログやメルマガではあまり打ち出せない方向性で、cakesがこの位置についてくれるなら、Webにおけるコンテンツの扱いはすごく豊かなものになっていくんじゃないか、そう感じられた。
また、編集者がついている、というところもWebのコンテンツの在り方を一つ変えてくれるのではと期待している。
Webでのコンテンツ発信は、通常発案から発信まで一人によって行われるものだ。
しかし文章とは書き手一人によって生まれるものではない。自分の得意分野を攻める分には支障がないが、自分一人という視点は意外と狭いものだ。誰かが関わり、違った視点で自分の引き出しを開けてくれるというのはすごく面白いもので、一人だけなら「こんな自分個人のことなんて誰も気にしないよな」と思うようなことが引き出せる可能性がある。
編集者が著者たちを後押しするcakesは、これまでネットで大活躍している人達の違った側面を見せてくれるのではないか。
と、そんなことまで期待しているのだ。
■記事表示形式は有効に機能するか?
cakesのページを開いた瞬間に、画面いっぱいに広がる記事一覧。
この記事一覧は「ユーザーに合わせて記事をおすすめしてくれるデザイン」ということで、おそらくこれまでの閲覧履歴から近いジャンルや著者の記事を表示する仕組みとなっている。
が、記事を探しにくい。正直なところ、ちょう使いにくい。Twitterでの評判を見ていてもあまりいい声を聞かない。
ので、ここは徹底的に使いにくいところを明らかにしてしまおう。
・記事表示一欄を動的な処理にしているため、2つ読みたい記事を見つけたとしても1つ読んでトップに戻ったらなくなっていてみつからなくなる
・大量に記事の存在する週アスや彼女写真などが並んでしまう
・学習機能がどう働いているのかわからないが、続き物などの初回を読んでも戻ると週アスや彼女写真がおすすめされてる
・各記事のボックスの大きさが縦横数段階存在し一見雑誌的ではあるものの、その意味が読み取れないために逆に混乱する
・記事ごとのイメージ画像が記事表示一欄に反映されるが、イメージ画像をつけていない記事が目立たず、必ずイメージ画像がついている週アス・彼女写真がやたらと目立つ
・スマホ対応が弱い。レスポンシブルな対応がされているかと思いきや、トップ画面はそのまま縮小されるため、拡大縮小を強いられる。拡大縮小を強いられた上での記事表示一欄は正直苦痛と言える
・記事表示一覧画面がすべてajaxで行われているが、スマートフォン(iPhone)ではタップしても起動しない/やたら遅い/読込状況がわからないとストレスフルすぎる
・著者一覧が存在しない。Hagexさんも言われているが、特定著者をトップページから探すことができず、流し読みに不向き
なんだか大ダメ出し大会になってきたが、せっかくのWEBマガジンという形式をUIが阻害する形となっているように感じられる。
現在のところ、記事学習機能は「読み手が楽しくcakes内の次の記事を読める」形式になっておらず、せっかくの良記事が埋もれてしまっている。
例えば読者が良記事!と思ったら1票を投じるなどして記事の重み付けをしたり、好みの著者をお気に入りに入れてこのお気に入り作家の表示のみを行わせるなどの形式を用意するか、いっそ雑誌的にテキストで目次を作成した方が良いのではないか。
コンテンツが主役だからこそ、技術に頼らずコンテンツを活かせる表示にしてほしいものだ。
■異質に感じられる提携メディア
cakesは個人の著者だけでなく、様々なメディアと提携してその記事を配信しているのも特徴だ。
例えば週刊アスキーや週刊ダイヤモンド、モーニングなどの記事もcakes内で読むことができる。
…ただ、この提携メディアがcakesユーザーとどれだけマッチするのか、というのを考えると疑問に思える部分は少なくない。
週刊アスキーの記事などはガジェット関係の記事を精力的に配信しているが、普通に開放された無料メディアで読めば良く、有料の濃い記事群と比べて軽さが浮いてしまっているし、何より記事一覧ページを専有してしまい、他の優良な記事を圧迫してしまっている。
記事一覧に週刊アスキーが出るのが嫌なら週刊アスキーの記事を読まなければ良い…ということになるかもしれないが、ならばはじめから存在しなければ良い…と思ってしまうのだがどうか。
スタート時点でコンテンツ不足不足していたなら賑やかしとして必要だったかもしれないが、「月600円では安いくらいに充実した著者を揃えられた」という予想外のうれしい状況であったために、ちょっと考えものである。
■Twitterを中心としたマーケティング機能
新しい記事は著者が自らTwitterで告知するのがcakesの基本となる。
このため、注目する著者の記事をいち早く読みたいなら、彼らのTwitterアカウントをフォローする必要があるだろう。
また、著者は限定的に有料記事を読める、「時限スペシャルURL」を発行できるようで、このスペシャルURL経由でアクセスした場合、非会員でも1時間以内なら特定の記事を全文読むことができる。
これはcakesの記事をアピールする上で、とても良い機能だと思う。有料コンテンツ配信が「閉じていて購読すべきか判断がつかない」という声は、有料メルマガを中心に長く続いてきたものなので、この機能が上手く働いてくれることを願う。
ただ、Twitterでリアルタイムに行われるものなので、見つけにくいですよねーという話ではある。
また地味なところではあるが、記事単位にURLがつくので、Tweetやはてブ、いいねなどができるのは地道にcakesの露出を増やしていくだろう。このあたり、「WEBマガジン」という立ち位置の有利な点といえる。
といったところが、リリースから約2週間、cakesを眺めて思ったところだ。
記事表示は非常に難があるが、当初発表された著者以外にも多くの人が(例の四天王にあたりそうな別の人も!)記事を書くようなので、さらに注目していきたい。記事の充実っぷりは保証する。これはいいものだ。
有料メルマガやブロマガなどとの比較、有料コンテンツ配信全体の俯瞰なども考えていきたいのだが、ブログ無精なので期待しないでほしい。