年末になると更新量がほんのちょっと増える、raf00です。
2014年のF1が終わりました。のでまとめておきましょう。
1991年から数えると23シーズンを眺め、もうすぐ四半世紀を迎えるわけですが、ここに来て本気で「自分は今後も末永くF1を愛するけれど、これからF1を知る人に楽しいよとオススメしにくくなってきた」ように思えてきます。
■2014年 ドライバーズチャンピオンシップ
「メルセデスの完全勝利」。2014年はこの言葉が一切揺るぐことがなかった。
エンジン周りの規約が大規模に変更された2014年、シーズンオフテストから最終戦まで、コンストラクターズタイトルでもドライバーズチャンピオンシップでも、メルセデスを脅かすと言う言葉すら出ない完全なシーズンだった。PP18回、優勝16回、1-2フィニッシュ11回。
昨年もワンサイドゲームだったが、今年はメルセデスのハミルトンとロズベルグが緊迫したポイント争いを続け、個人タイトル争いが最終戦までもつれ込む展開となった。完全独走する1チームでチームメイトバトルが白熱した展開は89年のセナプロ以来となる。
メルセデス以下の各チームにとっては混乱の1年となった。
昨年までの覇者レッドブルは今季開発で大きく出遅れ、パワー不足なエンジンに苦しんだ。フェラーリもポイント獲得が精一杯な中でライコネンが不振に苦しみ、ウィリアムズ・マクラーレンはメルセデスエンジンを持ちながらも上位を確保することができなかった。
フェラーリ・ウィリアムズ・マクラーレンと言う古参名門チームが1勝もできなかったというのは近年例にないが、彼らが持ちうるベストを尽くしていたとしてもメルセデスの独走は止められなかっただろうと思えるほど圧倒の一年だった。
■今シーズンの事件
・エンジン騒動
2014年はエンジンがV6に、またハイブリッド化が進んだことで大きく情勢が変わることが期待されていた。確かに大きく戦力図は変わったが、メルセデスがあまりにも成功しすぎたことで、フェアなレースとは言いがたいものになってしまった。
今年、燃料の制限も厳しくなり各車パワーをセーブしながら走る必要に迫られたが、メルセデスは燃費も良く、ペースが早いためにガソリンを抑制する余裕も生まれてしまい、独走を許す要因をさらに増す結果となった。
これにより、シーズン後半には開発凍結を解除する要望が出ているが当初の規約どおり開発は凍結される模様。
また、V6エンジンはエンジン音が少なく低音で、「迫力に欠ける」と関係者がクレームを出す騒動にも発展した。「エンターテイメント性を増すためにエンジン音を大きくする仕組み加える」論議もなされたが、さすがにこれはナンセンスだろう。(個人的にはタイヤのきしみ、サスペンションの音が聞こえるのは新鮮だった)
・下位チームの経営破綻
ロータスやザウバー、下位2チームが経営難に喘いでいる状況は昨年から見られたが、ついに今年、マルシャとケータハムが破綻し、レースから脱落することになった。
シーズン後半でケータハムがチーム売却、さらに両チームは正ドライバーに代えてペイドライバーを走らせることで参戦費用を凌いだ。だが最終的には破綻が確定し、レースを欠場することになった。ケータハムはクラウドファンディングを使うことで最終戦に参加することができたが、来年の参戦はきわめて難しい。
また、かねてから資金難が報じられているフォース・インディア、ザウバー、ロータスも非常に厳しい状態である。分配金に関する交渉、開発費抑制に向けて動いてはいるが、もはやこれらのチームは「勝ち上がってより多くのスポンサーを得られるドライバー探し」を断念し、「チーム存続のためにスポンサーを持ち込んでくれるペイドライバー」のためにシートを使っている。
さらにシーズン終盤には欧州連合がF1のアルコール広告を制限することを求めるというニュースが報じられた。現在のF1は多くのアルコールブランドが参入しており、これが禁じられるとなると上位・中堅チームも苦しい展開になってしまう。
・鈴鹿 ジュール・ビアンキの事故
アイルトン・セナの死亡から20年、F1は安全性を追求し続けてきた。ドライバーの保護に関する進化は目を見張るばかりで、現在では(昔なら骨折で済んで良かったといわれるような)激しいクラッシュでも怪我一つなくドライバーがマシンを降りられるようになってきている。
しかし、今年の鈴鹿グランプリでは悲劇が起きた。リタイヤしたマシンを撤去するクレーン車にマルシャのジュール・ビアンキが追突、クレーン車の底にもぐりこむ形で頭部に危険なダメージを受けたのだ。一命は取りとめ、自発呼吸が行える状況でフランスに転院したが、予後が明るい負傷ではない。
2012年には同じマルシャチームのテストドライバー、マリア・デ・ヴィロタがオフのテストでサポートトラックに衝突し右目を失った後、約一年後にクラッシュによる神経損傷が元で急逝している。
どちらも誰が悪いというものではなく、とびきりの不運から生まれた事故ではあるが、久々に起きてしまった大事故に、来年以降のレギュレーションに影響がありそうだ。
■今年の一語
「欠伸」。
シーズン開幕前から大勢が決していたこと、昨年までのようなタイヤの暴走がなかったこと、さらに今年から燃料制限が厳しくなり、ガソリン残量を労わり守備的なレース展開が見られたことなど、中段以下の競り合いも今一つ盛り上がらないものだった。かつて「F1サウンド」と呼ばれたエンジン音もなければ、未来を感じさせる美しいF1マシンはヘンテコ極まる醜いフロント形状になるなどテンション上がらないことこの上ない。
■1位 メルセデス総括 (総獲得ポイント701点)
多分、全戦ピットスタートしていてもWタイトル獲得してたっていう。
最高速が出せて燃費効率が良いエンジンと、安定性を持ったチートマシン。爆発的なスタートダッシュを決めたら残りは燃料とタイヤをセーブして走れるので、今年各チームを悩ませた「燃料のマネジメント」も全く関係なし。
1チーム独走であるがために内紛が起きないか、という唯一のリスクは、数度危険な兆候が見られただけで決定的な分裂には至らなかった。
予選に強く表彰台を逃さないロズベルグと、決勝で爆発的に強いが幾度かの不運に見舞われたハミルトンという構図で最終戦までタイトル争いが続いたが、ロズベルグ5勝ハミルトン11勝と勝ち数ではハミルトンが大きく上回っている。結果で見ても展開で見てもハミルトンのチャンピオン獲得は納得。
エンジン開発凍結のまま来年を迎えるため、来季も最有力候補であることは間違いないだろう。
■2位 レッドブルチーム総括 (総獲得ポイント405)
4連覇を達成したレッドブルだが、ルノーエンジンの欠陥とマシン開発の失敗に泣かされながら這い上がる一年を過ごした。当初はQ2突破すら難しいと考えられるほどの劣勢、開幕戦では違反による失格と散々な状況だったが、終盤にかけてメルセデスに次ぐ位置まで持ち直したのは見事というほかない。
ドライバーでは新人のリカルドが大活躍しチームを牽引。メルセデス以外では唯一の勝利を3回獲得、表彰台回数も多くチームの英断が間違いでなかったことを証明した。
一方でディフェンディングチャンピオンのベッテルが大苦戦。予選ではリカルドに全く太刀打ちできず、決勝でも冴えないレースを続けた。表彰台獲得はわずか3回。来季はフェラーリで真価を試されることになる。
チームとしては資金力もあり実績も豊富だが、今シーズンでエイドリアン・ニューウェイが本格的に離脱することになり、来季以降の開発力は全く未知数。
■3位 ウィリアムズ総括 (総獲得ポイント320点)
5ポイントしか獲得できず経営難に喘いだ昨年から一転した。
イタリアのマルティーニとペトロブラスをスポンサーに迎え。さらに前年スポンサーのPDVSAからのスポンサー契約違約金を得るなど一気に資金は潤沢になり、また今年から契約したメルセデスエンジンの出来は素晴らしく、開幕テストではメルセデスに迫るタイムを連発、チャンピオン争いすら期待させる体制でシーズンを開始した。
この2014年をコンストラクターズ3位で終えたことは名門復活と呼ぶに十分な結果ではある。
素晴らしい復帰ではあるのだが、トラブルでポイントを取りこぼすことが多く、また長年下位に沈んでいたためか、非常に保守的な戦略を取ることで上位完走を逃すことも多かった。マシンが本来持つポテンシャルを考えればもっと多くの表彰台を獲得できていただろうし、レッドブルを下してコンストラクターズ2位を得ることすらできたかもしれない。
■4位 フェラーリ総括 (総獲得ポイント216点)
革新的な開発にチャレンジし悉くが失敗、21年ぶりに優勝のない1年を過ごした。
フェラーリエンジンは信頼性こそ高いものの重く燃費効率も悪かった。フロントの旋回性も悪くこの問題は1年を通じて残り、独特なドライビングをするライコネンを大いに苦しめた。
マシンの性能限界を超えた働きをこれまで見せてきたアロンソをしてもポイント獲得が精一杯という苦戦を強いられ、ロータスから移籍したライコネンに至っては全ドライバーの中で同僚と最も大きな差をつけられたワーストドライバーになってしまった。
体制面でも大荒れな1年となった。ルカ・ディ・モンテツェモーロ会長の辞任に始まり、監督交代など大量の人事刷新が行われている。シーズン終了後もエンジニアの離脱が続き、完全な一新に近付いている。この影響で来季心マシンのデビューが1月末に遅れると報じられたが、果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
ドライバーもベッテル・ライコネンの新しいWチャンピオン体制になるが、二人とも同量に大差をつけられたコンビ(ポイント差を足すと177点)とも言える。
■5位 マクラーレン総括 (総獲得ポイント181点)
メルセデスのパワーユニットを得ながら、このユニットの独特な形状に合わせたボディデザインができず空力面で劣り、地味な一年を過ごしてしまった。
ただし、メルセデスチームが数年前から今年に向けて開発の焦点を合わせていたように、マクラーレンもまた2015年に向けた開発を進めているチームである。そう考えればこの結果も仕方ないといえるだろう。
ドライバーはジェンソン・バトンと新人ケビン・マグヌッセンのコンビ。初戦でマグヌッセンがいきなりバトンを上回る結果を出し驚かせたものの、その後は着実に上位入賞を続けるバトンの後塵を拝した。
来季は1992年以来となる「マクラーレン・ホンダ」が復活。ドライバーもアロンソ・バトンとWチャンピオンとなり、名将ロン・デニスがチーム体制をより強力にまとめ上げる1年となる。各パワーユニットの開発が凍結される中、後発で投入されるホンダの力次第ではメルセデス独走を抑えられるかもしれない。
■6位 フォース・インディア総括 (総獲得ポイント155点)
シーズン後半になるほどに速さが増しポイントを稼ぐ…というのがフォース・インディアの例年のパターンだった。
しかし今年はシーズン序盤からQ3に進出、ポイントを獲得していくなど早い出足を見せる。数々のレースでポテンシャルの高さは伺わせたのだが、開発資金が不足しているのかシーズン後半に入るほどに後退、今年も中堅を脱出することができなかった。
ドライバーは来季もニコ・ヒュルケンベルグ、ペレス体制を維持。
■7位トロ・ロッソ総括 (総獲得ポイント31点)
レッドブルに移籍したリカルドが大活躍し、来年はクビアトを送り込むなど、レッドブルのジュニアチームとしての役割を淡々と果たしている。マシンはエアロを除く多くのパーツでレッドブルと同じものを使いながら早いマシンとは言えず、しかしやたらと直線スピードが出ることで、彼らをパスしていきたい多くの上位ドライバーを苦しめ続けた。
ザウバーが完全にペイドライバー採用を続ける今、来年も新人育成に生きる展開になりそうだ。
■8位ロータス総括 (総獲得ポイント9点)
財政難に苦しみ新車投入が遅れ、さらにルノーのパワーユニットが完全な失敗作で、冬季テストはほとんどマシン熟成が行えないぶっつけ本番でシーズンに臨んだ。
昨年までの活躍は全く影を潜め、0ポイントのままシーズンを終えてしまうのではとすら危惧される中、なんとか一年を走りきった。昨年までは多額のスポンサーマネーと、それに見合わぬ高い実力で株を上げたマルドナドは今季大失敗。クラッシュドライバーだったグロージャンが代わりにチームを引っ張り、粘りの走りでポイントを獲得した。
来季もこの2人が契約を継続、メルセデスにパワーユニットを切り替えて再起を期すが、なぜか来年のエントリーリストで「暫定」扱いになった。
■ザウバー総括 (総獲得ポイント0点)
下位2チームを除けばパフォーマンスは最低で、ペイドライバーしか雇えない、参戦を続けることが目的のチームになってしまっている。マシン・ドライバーともに見るべきところはなく、最後までポイントと無縁のまま一年を終えた。
来季もグティエレス・エリクソンという二大ペイドライバー体制を固めており、将来は暗い。
■マルシア総括 (総獲得ポイント2点)
チーム初のポイントを獲得し、過去最高のコンストラクターズ9位を獲得する予定だったが、シーズン途中で資金が枯渇、また鈴鹿GPでビアンキが生死に関わる重大事故を起こすなどの不幸も重なり、結局シーズン途中でレースを終えた。
シーズン後、チームに関わる様々な物品をオークションに出しており、完全に清算を開始。来季参戦権の売却も難しい状態になっている。
下位2チームは同カテゴリの戦いとは言えない状況での走りが強いられるため、ドライバーの評価が難しいが、その中でビアンキはチームに初のポイントをもたらすなど安定性を持ったドライバーだった。それだけに事故で競技人生を失ったことは痛恨である。
■ケータハム総括 (総獲得ポイント0点)
シーズン中盤でチームの売却騒動が発生、その後買収先が全く支払いを進めていなかったことが発覚しレースを欠場。クラウドファンディングなどで参戦費用をかき集めてなんとか最終戦には参戦したものの、パーツ交換すらままならない状況で、そもそも参戦する意味があるのか甚だ疑問の1年だった。
小林可夢偉が個人ファンドで集めた費用を持ち込み参戦、多額のスポンサーマネーを持つエリクソンとタッグを組んだが、予選で0.5秒劣り続けたエリクソンが優先される環境では評価のしようもない。
エリクソンはスポンサーマネーを手土産に悠々ザウバーに移籍、可夢偉は来季シートが完全に埋まっている中で白旗を上げた。もし今季ケータハムを選ばず、フェラーリのテストドライバーとして残留していれば2015年は違う展開になっていただろうか…と考えてみるもおそらくシートは獲得できなかっただろう。なんとも残念な幕切れで、そしておそらくこれが現代のF1なのだ。
■個人的総括
純粋なドライバーの速さ争い、純粋な技術競争が失われて何年が経つのでしょうか。
条件を積み増し制限を重ね、ついに「世界一」の輝きが鈍ってしまったと感じられる一年でした。
コスト削減施策は一向に捗らず、コスト削減案の一つであるエンジン開発凍結によりワンサイドゲームが向こう数年展開するだろうことが予想されています。中位以下のチームの経営難は極まっており、参戦台数20台割れする状況が現実的に見え始めてきています。
ドライバーは過度の低年齢化と、速さではなく持ち込み金額によってシートが決定するようになり、有望なドライバーのチャンスが多く失われました。下位カテゴリであるGP2やF3などで活躍してもF1の道は開かれず、10億を超えるスポンサーマネーを持つ凡ドライバーにシートが与えられる現状。このままではかつてF3000クラスがそうなったようにGP2も「有望だったドライバーの墓場」になってしまうでしょう。
人間が耐えられる速さはとっくに限界を超え、豪華絢爛な世界一のイベントとしてはあまりに費用がかかりすぎるようになりました。途方もない記録が打ち立てられ、その記録が更新されるためにはとんでもなくつまらないシーズンを経験する必要が出てきています。
F1ファンとしては様々な限界の中で続いていくのを見続けていくでしょう。続く限り次の四半世紀もずっと見続けているでしょう。ただ、ほんとF1を見ていない人にはすすめにくくなったなぁと感じます。
そんな1年の中でもメルセデスの2人のバトルは高レベルで見応えのあるものでした。