【コンテンツ販売】2週間が経過した「note」を考える

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次回予告という慣れないことをすると自分の首を絞めます、raf00です。

cakesを運営するピースオブケイクが新しいコンテンツ販売サービス「note」をリリースして2週間が経過しました。リリース直後に会員数が1万を超えるなど、新しいサービス好きな界隈では非常に話題になっており、note内外で活発な言及が見られています。
久々のコンテンツ販売プラットフォームの登場に、例によって熱心な観察を続けているのですが、このnoteは眺め続けるほどにサービスに対する認識が変化する不思議な動きを見せています。ある程度認識が明確したら…と考えているとあっという間に1ヶ月が過ぎてしまいそうなので、2週間というタイミングで書き残しておきましょう。

■続々と著名クリエイターが参入している

当初から伊集院光が登録するなど著名なクリエイターが名を連ねているnoteですが、その後も続々と著名人が集まっており、電子出版界ではおなじみのうめや鈴木みそ、CLAMPやひうらさとる、ゆうきまさみ、田中圭一、新條まゆなど多くの漫画家が、小説では新城カズマや、結城浩などが活動を行おうとしています(以上敬称略)。
また、行動力のあるインターネットユーザーも非常に多く見られ、その中の一部は実際に有料コンテンツを公開し始めており、立ち上げ2週間のサービスとしてはこれまでになかったレベルで人材が充実しています。
SNSは「どんなことができる」ことよりも「どんな人がいる」ことの方が参加の重要なきっかけになります。既に参加しているこれらの著名人がnoteで継続的に活動を続けたならば、相当数のファンが登録をしていくのではないでしょうか。

もっとも2週間経過時点で(実験的投げ銭・超初期的テストコンテンツを除く)コンテンツの販売を積極的に始めている人は少なく、いずれも様子見を続けているのが現状です。っていうか伊集院光はいつになったら何かを売り出すのでしょうか。

■軽い金銭のやり取りがカジュアルに行われるようになった

コンテンツの販売ができるサービスであるnoteですが、有料ノートとして公開されている、あるいは全文無料閲覧できるノートの投げ銭行為に対して、実際に活発に購入が行われています。
これはこれまでの有料コンテンツ販売プラットフォームを見てきた者としては少し驚きを感じる状況です。「投げ銭、あるいは投げ銭感覚でコンテンツ内容以上に発信者に対して小銭を送る」という試みはこれまでに何度も何度も行われてきましたが、実感できるレベルで「それなりに活発に行われているな」と感じさせるものはありませんでした。

有料コンテンツ販売は理念の素晴らしさなどどうでもよく、「実際にそこに人が金を落としたか」だけが問われるもの。多くの発信者が様子見のコンテンツを投げ入れている状態で、それでもそこに金を投じるユーザーが一定数表れつつある、というのはとてもポジティブな兆候であると思います。
電子書籍にクラウドファンド、有料サロン、諸コンテンツ販売プラットフォームなど多様な「お金を払える仕組み」が揃ってきたことで、多くのユーザーがネットにお金を投じる抵抗がなくなってきたのでしょう。これまで様々なコンテンツ販売プラットフォームは「売りたい人ばかりで買いたい人が集まらない」悩みを持つものでしたが、随分時代が進んできたなと感じられます。

■noteはどんなサービスなのか

コンテンツ販売サービスが始まった、そう認識してからしばらくnoteを理解することができませんでしたが、2週間が経過した今、noteがどんなサービスであるかの認識はほぼ固まりつつあります。
ソーシャルネットワーキングサービス、SNSです。

優良コンテンツの発見や新しい興味との出会いではなく、気になっている人をフォローしその人のコンテンツを受け取り、あるいは交流するためのサービスです。
その上で、favやlikeの代わりに応援したいクリエイターに対してわずかばかりの金銭を投じられるもの……と認識すると概ね現在のnoteの動きが理解できます。

コンテンツを軸としたプラットフォームではなく、人を軸とした構成となっているため、「良質なコンテンツを探し購入する」という方向性を持っておらず、「タイムラインに流れてくる好きなクリエイターの販売物を購入する」というスタンスであるため、「パッケージとして完成されたクリエイターの直球的なコンテンツ」は現時点でほとんど見られません。

その代わりにシンプルさを活かした変則的なコンテンツが販売され、
・原則無料で付加価値を販売するもの(うめ氏)
・購入に応じて作品を作る受託販売(タムカイ氏)
・有料区域でメモを更新し販売(岡田育氏)
といった新しい試みが見られます。直球が難しいなかで生まれるこうした変化球は実に面白く興味深いものですね。

■noteという場

noteに関してnote内のノート(呼びにくいなこの概念…)やブログエントリなどで数多く賞賛されており、その賞賛ポイントには共通点があります。
・コピー同人誌を手売りする感覚(同人誌即売会という場ではなく自分で作って売る感覚)
・体験に対して100円or500円の価値があった
・バザーごっこ
これらはコンテンツが売る/買うことの一つ一つに実感が伴うという点で共通していると言えるでしょう。

この感覚は一方で「一つ一つ売れたということが実感できる程度にしか売れない」ということも示しています。
同人の例えは皮肉にも秀逸で、数十部しか刷っていないコピー誌を売るのであれば売上よりも「手にとって買ってくれた」というコミュニケーションが報酬になりますが、部数が増えればコピー誌の製本では手間がかかりすぎるのでオフセット印刷をするようになり、たくさんの人が買ってくれるようになると並んでくれる人たちにどう均等にコミュニケーションできるか、どう行列を迅速に捌くかに気を向けなければならなくなるもの。
販売規模によってその言葉の印象が大きく変化していくものですが、その中で最もミニマムな意味合いでの賞賛がされていることがnoteにおける販売の現状を表しているといえます。

■noteで人は飯を食えるのか、どう進むのか

サービス開始から2週間ほどが経過していますが、前向きな雰囲気は継続しています。いくつかの「ステキな売り方だ!」と感じされるものも出てきているため、著名人らがそれらを下敷きに多くのコンテンツを出してくれることを期待しています。

ただ、「クリエイターが飯を食える」ものになるか…といえば現段階での考えはネガティブにならざるを得ません。
現在語られているような「売る/買う体験が楽しい」販売レベルのままでは有能なクリエイターが場に留まるインセンティブにはなりえませんが、これだけ大量のクリエイターが存在するとよほど多くの購入者が現れないと維持できないでしょう。投げ銭的な行為はやはり今だけで、今後クリエイターが「それなりにコンテンツそのものに価値を認められる作品」を販売していけば投げ銭文化は滅びます。

また、noteがSNSであるということで、Twitterやfacebook、あるいはブログなどと共存していかなければならない点は無視できません。今だからこそnoteに訪れてやんややんやと騒ぐのも楽しめますが、これが一段落したタイミングで「ソーシャルグラフの多重構造」はユーザーの負担になってきます。また販売が主眼であるのならば、無料記事が大量に投稿させる状況は販売を低下させる要因にもなりえます。コンテンツ販売とタイムラインフィードの相性が良いのか悪いのか、未だに判断することができませんが、どのような未来であってもそれなりの課題を抱えるものであるように思えます。
(note内のRTやトラックバック機能などが求められていますが、それらは「ユーザーみんなが本気でSNSとしてnoteを使う」ことが有効性の前提となるもの。安易な実装はノイズを極端に増加させることになりそうなのでよくよく考えるべきだと思います)

と、ネガティブなことを並べ立てましたが、冒頭でも触れたようにnoteは「日を追ってサービスに対する認識が変わる」というその途上にあります。
そして正直に申し上げると「当初予想していたよりもはるかに多くの人がコンテンツの購入にポジティブになっている」ので、その点をお詫びしつつ今後に期待すべきなのでしょう。

ともあれ、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後の展開が楽しみなので、引き続きチェックしておきたい存在です。

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